2026-06-03
肩関節外科投球障害肩の病態
SLAP損傷や腱板損傷・断裂の状態(赤)まで進むと競技復帰に長時間を要し、手術を行ったとしても術前と同じレベルに復帰することが困難です。病状が進行しないよう早めに予防や治療(運動療法や投球フォームの修正、投球動作の禁止など)を行っていくことが重要です。

各Phaseでの疼痛と鑑別

投球相は大きく以下のPhaseに分けられます。
Phase I~III:前方要素にストレス
Phase III~V:前方上方後方要素にストレス
Phase V~VI:後方要素にストレス
| 投球相(Phase) | 疼痛と鑑別すべき疾患 |
|---|---|
| Phase II (early cocking) ~ Phase IV (acceleration) |
前方に痛みを生じる場合: インピンジメント症候群、RI損傷、長頭腱炎、長頭腱脱臼、肩峰下滑液包炎、肩甲下筋腱損傷、関節上腕靭帯損傷、前上方関節唇損傷 後方に痛みを生じる場合: 腱板関節面断裂、後上方関節唇損傷、インターナルインピンジメント |
| Phase V (deceleration) ~ Phase VI (follow-through) |
腱板損傷(棘上筋、棘下筋)、滑液包炎、上方関節唇損傷、Bennett病変 |
肩関節内後上方インピンジメント
定義
肩関節後方の拘縮(硬くなり、動きにくくなっている状態)や肩甲胸郭、腱板(肩の周りについている筋肉)の機能低下が原因で発症し、SLAP損傷・腱板断裂になる一歩手前の状態。
肩関節後方の組織が硬くなると、振りかぶって肩が一番外側にしなる段階(=コッキング期)で、上腕骨が硬くなっている後ろの組織に引っ張られて、上腕骨が通常より後上方に移動。このコッキング期での上腕骨の後上方移動が原因となり、投球動作の度に肩の後上方で腱板と関節唇(=関節を安定させる軟らかい組織)が、衝突(=インピンジメント) を繰り返します。


肩甲胸郭の機能が低下している状態(特に肩甲骨を内側に寄せる機能が低下している状態)や肘下がり、体の開きが早い投球フォームでは、肩を必要以上に後ろ側、外側に広げることを余儀なくされるために、同様に肩の後上方で腱板と関節唇が衝突します。

症状
コッキング期で肩関節後方の疼痛や引っかかり。
治療
保存的治療が原則です。
安静(投球動作の禁止、ノースロー)、薬物、注射療法。
炎症が落ち着いてきた段階でリハビリ加療(まずはシャドーから、痛みがなくなれば投球練習・フォーム修正)。
症状が改善しない場合は関節鏡による精査や手術が必要となります。
SLAP(肩関節上方関節唇)損傷
関節唇
楕円形の形をした肩甲骨関節面の縁を取り囲むように円状についている軟らかい組織で、肘からくる上腕二頭筋長頭筋腱(LHB)と一体化しています。
SLAP損傷
肩関節内後上方インピンジメントの状態を放置し、投球動作を繰り返すと関節唇損傷が悪化します。投球動作の度にLHBの牽引力が働き、関節唇はLHBと一緒に肩甲骨から剥離し、しばしば腱板断裂を合併します。

SLAP損傷の分類(Snyder分類)

手術適応
| タイプ | 適応手術 |
|---|---|
| タイプ1、3 | 変性した関節唇をシェービングして新鮮化する関節鏡下デブリードマンの適応 |
| タイプ2 | 損傷した関節唇を縫合・修復するSLAP修復術の適応 |
| タイプ4 | 必要に応じてLHBの修復(腱固定もしくは切除) |

SLAP損傷の術後リハビリ
| 時期 | リハビリ内容 |
|---|---|
| 手術翌日 | リハビリ開始 |
| 術後1日~1週間 | 他動運動は痛みに応じて開始 |
| 術後1週間 | ウルトラスリングの枕を外す |
| 術後1週間~3週間 | 自動運動は痛みに応じて開始 |
| 術後2~3週間 | スリング固定(ウルトラスリング)除去 |
| 術後6週間まで | 投球動作(外転位での外旋)禁止 |
目標
| 時期 | 目標 |
|---|---|
| 術後1ヶ月 | 日常生活は制限なし |
| 術後3ヶ月 | 可動域・筋力が回復していればシャドー。徐々にキャッチボールへ移行し投球再開。 |
| 術後6ヶ月 | 試合復帰 |
予後について
SLAP損傷修復術を行った場合、スポーツ復帰はオーバーヘッド競技でおおむね60%で術前と同程度、野球ではさらに復帰率は低くなることが報告されています。

術後リハビリの一例(野球)
| 時期 | リハビリ内容 |
|---|---|
| 手術翌日 | リハビリ開始(セルフストレッチ、肩甲骨訓練、等尺性筋力強化は速やかに開始) |
| 術後1日~1週間 | 他動運動は痛みに応じて開始 挙上150度、下垂外旋45度までの制限つきで可動域訓練開始 |
| 術後1週間 | ウルトラスリングの枕を外す |
| 術後1週間~3週間 | 自動運動は痛みに応じて開始 |
| 術後3週間 | スリング固定(ウルトラスリング)を除去。制限なしで可動域訓練を開始 |
| 術後4週間 | prone setting、肩回旋筋群の強化を開始 |
| 術後6週間まで | 投球動作(外転位での外旋)禁止 ※6週目以降から制限なくストレッチング開始 |
※術後3か月で可動域・筋力が回復していればシャドー。徐々にキャッチボールへ移行し投球再開
リトルリーガーズショルダー
病態と症状
- 定義:上腕骨近位骨端線の損傷(Salter-Harris I型)
- 好発年齢:11~13歳、約半数が投手
- 症状:抵抗下の外転時での内旋外旋で疼痛。上腕骨頸部の圧痛。日常生活には支障ない。
メカニズム
骨端線より近位にはインナーマッスルの腱板、遠位にはアウターマッスルの三角筋などが付着しています。
インナーマッスルには外転外旋ベクトルが主体、アウターマッスルには内転内旋ベクトルが主体となるため、投球動作によって骨端線に剪断力が加わります。

兼松分類
| タイプ | 状態 |
|---|---|
| I型 | 骨端線外側の部分的な拡大 |
| II型 | 骨端線全域の拡大 |
| III型 | すべりを伴う(まれ) |

治療とリハビリ
投球禁止(ノースロー)が治療の中心となります。外固定は基本的に不要です(III型のみ三角巾2~3週)。
- I型、II型:約1~2か月のノースローで十分(この時期にランニング、体幹、下肢のトレーニングを行う)。
- ノースロー後、2〜4週で圧痛や抵抗下の運動時痛がなくなれば腱板筋力訓練も開始。
- 投球再開目安:上腕骨頸部の圧痛消失、抵抗下の外転時の内旋外旋で疼痛消失(レントゲンは3〜6か月で正常化)。
- 塁間を50%の力で投げられるようになれば投球フォームのチェック。
I型・II型は後遺障害を残すことなく完全復帰が可能で予後良好です。
III型や再発を繰り返すときは、上腕骨成長障害や骨頭内反変形のリスクがあります。




