2026-06-03
肩関節外科腱板断裂とは
腱板とは
腱板は肩甲下筋(SSC)、棘上筋(SSP)、棘下筋(ISP)、小円筋(TM)の4つの筋腱で構成されます。
各筋肉の主な作用は以下の通りです。
①肩甲下筋:内旋
②棘上筋:初期の外転
③棘下筋:外旋
④小円筋:外旋・内転


腱板断裂
加齢および繰り返す機械刺激、外傷を原因として腱板の腱線維が断裂した状態です。40歳以上の男性で右肩に好発し、発症年齢のピークは60歳です。加齢変化で断裂を生じ、60歳で4分の1が、70歳で半数が断裂との報告もあります。断裂しても症状がない人もいますが、夜間痛、動作時の痛みなど、症状がみられたら治療が必要になります。
MRIでの評価と分類
正常腱板と断裂像

腱板断裂の大きさの分類(Cofield分類)

| 分類 | 断裂の大きさ |
|---|---|
| 小断裂 | 1cm未満 |
| 中断裂 | 1~3cm |
| 大断裂 | 3~5cm |
| 広範囲断裂 | 5cm以上 |
小から大断裂までは再建を考慮し、MRIのsagittalを確認します。広範囲断裂は70歳未満ならASCR(大腿筋膜を使用)、70歳以上ならリバース人工肩関節の適応となります。
腱板は使っていないと脂肪に変わると言われています。
Goutallier分類(棘上筋の脂肪変性の程度)

| ステージ | 状態 |
|---|---|
| Stage 0 | 脂肪変性なし |
| Stage 1 | わずかに脂肪変性 |
| Stage 2 | 筋肉成分 > 脂肪成分 |
| Stage 3 | 筋肉成分 = 脂肪成分 |
| Stage 4 | 筋肉成分 < 脂肪成分 |
Stage0~2までは腱板再建を考慮し、Stage3と4は再建しても成績が悪く、再断裂がおきやすいとの報告もあります。
当院での腱板断裂の治療
当院の腱板断裂治療のプロトコール
当院では以下のように治療を進めます。
- 肩の動きが悪い(拘縮あり)場合: まずはリハビリで拘縮をとります。
- 肩の動きが悪くない(拘縮なし)場合: 経過が長いか短いか、外傷性かなどを考慮し、まずは3か月を目安にリハビリを行います。
- 手術適応: リハビリでも症状が残存する場合や、疼痛コントロールが不可な場合、早期回復を希望される場合などに手術加療(+リハビリ加療)を行います。

当院での腱板断裂の手術治療

肩関節鏡手術について
肩関節鏡手術とは
φ4mmの内視鏡を関節内に挿入、大量の水(アルスロマチック)を流しながら手術します。
- 三角筋を温存できます。
- 5mmほどの傷が4-6か所程度、出血が少ない、侵襲の少ない手術。
- モニターを見ながら術野を共有でき安全。
- 常に洗浄、感染の可能性が非常に低い。
合併症・併発症について
頻度は少ないですが、以下のような合併症、併発症のリスクがあります。
- 出血: 肩関節鏡はほとんど出血しません。
- 感染: 大量の水を流しながら手術をするため、他の手術と比較して感染のリスクは少なくなります。
- アンカーの脱転、腱板の再断裂、再建腱板の癒着。
- 神経・血管損傷: 部分的なしびれ(下肢にも生じうる)や運動障害を生じる場合があります。
- 血栓性静脈炎・肺梗塞: 座位での手術のため血栓ができる可能性があり、弾性ストッキングやフットポンプなどで予防します。
- 再手術: 癒着に伴う拘縮解離や人工関節などの手術が必要になることもありえます。
当院の手術室


手術の実際
手術時間:約1時間~3時間
消毒、麻酔、レントゲン等で更に1時間程手術室に滞在します。
- 滑膜切除:掃除、洗浄
- 肩峰下除圧:腱板の上の骨を削って腱板の通り道をつくります。
- 腱板縫合:Suture-bridge法(主にテープアンカーを使用し、最後に内側の端々縫合を追加するトリプルロー法)を行います。
- 関節唇修復:必要に応じて骨頭を安定させる関節唇を修復します。
- 上腕二頭筋腱長頭(LHB)固定もしくは切除:必要に応じてLHBの処置を行います。
①滑膜切除、②肩峰下除圧
カニューラを設置してここから器具の出し入れをします。



③腱板縫合
U字型の中断裂
上腕骨頭(大結節Footprint)が露出してしまっています。
当院では主に整復アンカーを使用したトリプルロー法(トリプルSB)を行います。


④関節唇修復
必要に応じて、上腕骨頭を肩甲骨関節窩に安定させる関節唇を修復します。

⑤上腕二頭筋長頭筋腱(LHB)の腱固定
術後1週してから肘を動かし始めます。最初のうちは無理に肘を伸ばし過ぎるのは禁止です。

腱板縫合(Suture-bridge法)の実際

内側アンカー設置




吸収性アンカー(直径4.5から5.5mm)
使用するアンカーは直径3mm程のものもあり、金属は体内に残りません。

器具を使用して腱板に糸をかける





外側アンカー設置


Suture-bridge完成
露出していた骨頭は見えなくなり、腱板でしっかり覆われています。

術後の経過とリハビリ
術後(ウルトラスリングの装着)
断裂の大きさに合わせて、術後2〜4週ウルトラスリング(装具)で固定し、外転位をキープします(その間はわきを閉じられません)。
外転位を保つ理由は、手術中に軽度外転位で腱板を縫合しているからです。



ウルトラスリングのつけ外し、着替え・シャワーの練習
退院までにリハビリで装具のつけ外し、着替えの練習を行います。ゆったりした服や前開きの服が、術後の肩に負担がかかりません。
手術翌日より自立すればシャワー可能で、退院までにシャワー練習を行って自立します。


鏡視下腱板縫合術後リハビリの一例(入院中)
| 項目・時期 | 内容 |
|---|---|
| リハビリ頻度 | 手術翌日から1日2回(急性期は土日も)リハビリを行います。 |
| 手術翌日~ | 他動運動(リハビリの先生に動かしてもらう)を開始し、肘関節、手関節、手指も積極的に動かします。 |
| 退院の目安 | シャワー練習、着替え練習が自立すれば退院可能です。(抜糸は術後約10日です) |
| 入院日数 | 数日~約4週(400例の平均13.5日)です。入院日数による手術成績の差はありません。 |
術後リハビリの一例(退院後)
| 時期 | 内容・目安 |
|---|---|
| 退院後~ | 外来リハビリは最初は週2回程度で開始し、経過により頻度を変更します。 |
| 術後2~4週 | 装具の枕を外して、以降わきしめ、湯船への入浴も可能になります。 |
| 術後6週 | 装具を完全にオフし、自動運動(自分で動かす)を開始します。 |
| 術後2~3か月 | 肩の高さまでスムーズに手があがるようになれば、車の運転や自転車を許可しています。 |
| 術後4~6ヶ月 | 重いものを持ったり運動したりが可能になります。 |
| 術後5ヶ月 | 外来リハビリを終了し、自主練習へ移行します。 |
退院後のリハビリ・外来受診の目安
外来リハビリは週2回程度 最長150日まで(厚生労働省の決まりです)
(経過によって頻度、期間はかわります)
| 時期 | 内容・目安 |
|---|---|
| 術後3週 | Xp、装具の枕除去 |
| 術後6週 | Xp、装具完全除去、自動運動開始 |
| 術後9週 | 可動域チェック |
| 術後3か月 | Xp、MRI、肩スコア |
| 術後4か月 | Xp |
| 術後5か月 | 診察のみ、外来リハビリ終了 |
| 術後半年 | Xp、MRI、肩スコア |
| 術後8か月 | Xp |
| 術後10か月 | 診察のみ、経過良ければスキップあり |
| 術後1年 | Xp、MRI、肩スコア |
術後の評価と成績
術後半年で再建腱板の評価をMRIで行います
再建腱板の評価をMRIで行います。
Type1(最もいい)~5(最も悪い)。
Type4、5(再断裂)であっても求心位がとれていれば問題ありません。
菅谷分類
| タイプ | 状態 |
|---|---|
| Type 1 | 腱板に厚み、一様に低信号。 |
| Type 2 | 腱板に厚み、一部に高信号混在。 |
| Type 3 | 連続性は保たれているが厚みがない。 |
| Type 4 | 一部のスライスで連続性がない。 |
| Type 5 | 連続性の途絶部分が大きい。 |

術後成績・再断裂率について
全国的な再断裂率は5〜30%ですが、当院の再断裂率は8.8%(315例中28例)です。再断裂で手術が必要になる割合は2割程度です。
当院で肩関節鏡手術を受けられる方は、術前、術後3か月、6か月1年で、診察所見、画像所見、アンケート(自覚症状)をもとにスコア(JOAスコア、VAS、UCLAスコア)を測定しています。
JOAスコア、VAS、UCLAスコアすべて、術前より徐々に改善しています。


腱板縫合の手術はすぐによくなる手術ではありません。
手術からスタートで、手術後の外来リハビリが非常に重要です。
時に痛みを伴うこともありますが、時間の経過とともに楽になっていくことがほとんどです。
痛みがあってリハビリが進まないときは、注射や内服でコントロールします。







